マルチモーダル・リサーチ設計:複雑な市場で深いインサイトを得る方法
- The Dr.K
- 6月10日
- 読了時間: 4分
現代の市場は、これまでになくダイナミックかつ複雑です。顧客の声は断片化され、その行動は単一の調査手法では説明できなくなっています。そこで今、注目を集めているのが「マルチモーダル・リサーチ(Multimodal Research)」です。
これは、アンケート調査、インタビュー、フォーカスグループ、エスノグラフィー(民族誌的調査)など、複数の手法を組み合わせて、より立体的に問題を分析するアプローチです。単一手法では見逃されがちな深層心理や行動の動機に迫ることができます。
マルチモーダル・リサーチとは?
マルチモーダル・リサーチとは、1つの調査プロジェクト内で複数の調査手法を組み合わせて実施・分析することを指します。これは研究の世界で**「トライアングレーション(triangulation)」**とも呼ばれています。
1つの対象を複数の視点から捉えることで、より包括的かつ信頼性のあるインサイトが得られるのが特徴です。例えば、あるブランドを「消費者視点」「ユーザー行動」「市場の声」という3つの軸から同時に分析するイメージです。

調査目的を明確にする:すべては「なぜ」から始まる
良いリサーチは、明確な目的設定から始まります。しかし多くのプロジェクトでは、「何を調べるか」だけに集中して、「なぜ調べるのか」が曖昧なまま進められてしまいます。
マルチモーダル・リサーチは特に目的の明確化が必須です。でなければ、各手法から得られるデータがバラバラになってしまい、整合性のない結果となってしまいます。
🎯 例:「なぜユーザーが離脱するのか?」→「どの段階で、どんな感情的理由で離脱しているのか?」と再定義する必要があります。
手法別の特徴と使い分け
手法 | 適した目的 | 強み | 弱み |
アンケート調査 | 広範囲のデータ収集 | スピードとスケーラビリティが高い | 表層的な情報にとどまりやすい |
インタビュー | 深い感情や背景の把握 | 個人の動機や意見に深く迫れる | 時間と労力がかかる |
フォーカスグループ | 集団の認識や反応を観察 | ブランドやサービスへの印象の把握に◎ | 発言力の強い人に左右されることも |
エスノグラフィー | 実際の行動や文脈の観察 | 無意識的な行動や摩擦点を発見できる | 実施コストが高く、分析が難しい |
マルチモーダル設計では、これらの中から2つ以上を組み合わせることがポイントです。
なぜマルチモーダル・リサーチが必要なのか?
1つの手法だけでは顧客の「なぜ」は解明できない → 数字には現れない「理由」「感情」に迫るためには補完的な視点が必要です。
説得力のあるインサイトを得るため → データ同士が相互に補完し合うことで、納得感のある洞察が可能になります。
ブランド、UX、顧客体験全体を網羅的に分析するため → タッチポイントが複雑化する現代では、統合的な視点が不可欠です。
どんなAIツールが使えるか?
調査作業の一部をAIで効率化することで、スピードと精度の両立が可能になります。
活用目的 | 推奨ツール | 活用例 |
インタビューの要約 | ChatGPT, Claude | 回答の要約、キーワード抽出、感情の可視化 |
アンケート設計支援 | Gemini, GPT-4 | 質問文の多様化、自動生成 |
データ統合・要約 | Notion AI | 定量と定性の情報を組み合わせてレポート作成 |
プロジェクト管理 | Notion, Trello | スケジュール・タスク管理 |
従来型リサーチと何が違うのか?
マルチモーダルは「とにかくたくさん調べる」という話ではありません。異なる視点からのデータを“交差”させて深層インサイトを導き出すのがポイントです。
例えば…
定量データでは「ページAで離脱が多い」と判明
定性データでは「信頼感がない」「意味が分からない」との声→ 両者を結びつけることで、「ページAのメッセージが曖昧で信頼を損ねている」という核心が見えてくるのです。
断片的なデータをつなぎ、行動の“なぜ”を説明するインサイトが得られるのが最大の違いです。
結論:マルチモーダル・リサーチは今すぐ始めるべき
ブランドや製品が顧客と深くつながるためには、顧客の「声」をしっかり聴く必要があります。しかしその声は、一つの言語(=手法)だけで語られるものではありません。
マルチモーダル・リサーチはその多様な“言語”を翻訳し、理解し、戦略に落とし込む最も有効な手段です。さらに、AIの活用によってこれまで以上に早く、深く、スマートに実行できます。
ノイズの多いこの時代に、本当のインサイトを得たいなら、マルチモーダル・リサーチはもはや「選択肢」ではなく「必須」です。
🧠 DRKでは、マルチモーダル・リサーチを活用したブランド戦略設計、UX診断、カスタマージャーニーの分析などを提供しています。この記事があなたのリサーチ設計のヒントになれば幸いです。
Comments